クラスメイト 〜two years later〜 注:この作品はこちらの2年後のお話となっております(^^; 閑静な住宅街に、微かに車のエンジン音が聞こえてきた。 その雑音が徐々に大きくなり、外壁がオフホワイトカラーのこじんまりとした一軒家の前で停まると、 そこに住んでいる家の人間がにわかに慌しくなる気配を見せた。 「リノア!リノア!」 階段の下から大きな呼び声が聞こえる。艶のある上品な声だが、少し興奮しているようだ。 (気だけ若いんだから。) 何でそこまで鼻息荒くするかなあ、と思いながらリノアと呼ばれた少女は階下に向かって返事する。 「もうすぐ降りるから!!」 ボーダーのクルーネックシャツの上に、先日購入したタンガリーシャツをあわてて羽織る。 パンツの丈は・・・よし!おっと、忘れた。スカーフがないとまだまだ外は肌寒い。 春らしいペパーミントカラーを首にひと巻きして、自分の部屋を後にした。 階段から降りてリビングから玄関に向かおうとするリノアを、早く早く、と急かす母親。 姿見で全身チェックするのもそこそこに、お気に入りのフラワーパンプスにつま先を通す。 「ほら、もうレオンハート君着いちゃったわよ、何もたもたしてるのよ。」 「わかってるってば〜!ていうか、何でお母さんがそんなにソワソワしちゃってるわけ?」 「せっかく新しい車で迎えに来てくれたんでしょ?待たせちゃ悪いじゃない!」 「そんなこと言われなくてもわかってるって!いってきまーす!」 手櫛で軽く髪の毛を整えながら玄関のドアを開けると、見慣れた普段は無愛想な顔が門の外にあった。 カーキ色のサルエルパンツ姿のスコールを見て、今までになかった彼のファッションセンスに思わずリノアはドキッとしてしまう。 普段はタイトスキニーなパンツかデニムタイプが多かったから、すごく新鮮に見えた。 無造作に重ね着された無地のTシャツとの組み合わせは、むしろ彼のような長身にはすごく映えると思う。 彼は、彼女の背後に見える母親と目が合うと軽く会釈をし、微笑んでみせた。 「ごめんね、スコール、お待たせ!」 「いや、別に・・・・・・。」 「お母さんがね、待たせちゃ悪いからって急かすんだよ〜!」 車を降りて、玄関のチャイムを鳴らす前から家の中の喧騒具合を察していたスコールは、平静を装いながらも リノア母娘の慌てぶりを目の当たりにして苦笑せずにはいられない。 そんなスコールの素振りを無視して、すぐにリノアの興味の対象は本日の準主役に移った。 「わあ、すごい!これがずっと前からスコールが欲しいって言ってた車?」 「そうだな、納車がギリギリ間に合って良かった。」 本人は本当は映画に出てくるようなオープンカーに乗るのが夢らしいが、狭い路地が多い街中でしか走れない現実を考えると スポーツカーは逆に不便でしかない。家族の意見と最近の車種の動向など 吟味を重ねた末ステーションワゴンにした、という事だけしかリノアは知らされていなかった。 漆黒のボディ。いかにもスコールらしい色だ。 目を輝かせながら傷一つない車体を見つめるリノアに対し、「乗れよ」と言ってスコールは助手席のドアを開けた。 「わー・・・、いいのかな、お邪魔しまーす。え、これ靴脱いだほうがいいの?」 「そんな気を使うな、俺はそんな神経質じゃない。」 「え。意外〜。」 「乗るのか?乗らないのか?」 「わわわ!乗る!」 リノアが慌てて座席に腰を下ろしシートベルトに手をかけるのを見て、スコールはくつくつと笑いながらドアを閉める。 新車特有の内装の臭いが鼻につく。乗り物酔いする人ならかなり辛い臭いかもしれないが、 幸い二人ともそういったことはなかった。むしろ、この真新しさが一層特別感を醸し出してくれる。 シートに深く座りなおすと、彼なりに一生懸命不自然さをなくそうとしていたであろう、車用芳香剤の香りも混じるのにリノアは気付いた。 そんなささやかな努力を想像して、思わず可笑しくなって笑みがこぼれた。運転席に乗り込んだスコールには気付かれないように。 「よし。行くぞ「しゅっぱつしんこ〜う!!」」 「・・・・・・。」 スコールがエンジンキーを回すと、小さな振動が全体に伝わる。 ギアをローに入れると、右足はアクセルを徐々に踏み込みながら左足でクラッチを繋いでゆく。ゆっくりと車はスタートした。 (あれから二年経ったんだ。) 二年前の今日は、まさか二人でこんな日々を過ごせるなんて思ってもみなかった。 ただのクラスメイトから、一歩前に踏み出せた日。わたしの誕生日。 今日はスコールがわたしをお祝いしてくれるんだって。二人の記念日も兼ねて。 この車を買うために、頑張ってアルバイトしてたの、わたし知ってるよ。だから 会えなくて寂しい日もたくさんあったけど、その度に電話やメールで存在を与えてくれた、傍にいるのを感じさせてくれた。 どうしても会いたくて会いたくて、夜中に泣きながら電話して困らせたこともあったっけ。 お互いの言葉が足りずに、喧嘩して気まずくなったこともたくさん。 その度に、スコールは仏頂面ながらも謝ってくれた。わたしの方が意地っ張りなの、知ってるから。 一つずつ我慢することも覚えないといけないんだ、って気付かせてくれた。 こんなワガママなわたしを、二年間見ていてくれてありがとう、って今日はこっちがお礼を言いたいくらいだよ。 フロントガラスから穏やかな光が差し込み、空調もあいまって心地いい。 流れているFMはわたしの好きな番組。いつも聴いているからスコールも自然と聴くようになったみたい。 ”特別な一日”が始まる。隣には好きな人がいる。自然と、今日という日が楽しくなる予感がした。 Happy Birthday dear Rinoa!! Fin. ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: あとがき 2012年リノア誕用に・・・と書きましたが、あまりにブランクがありすぎたので 表に出すのは申し訳ないと思い、拍手御礼として掲載しておりました(^^; novel indexへ Creep TOPへ |