クラスメイト(3)




スコールから唐突なメールをもらってから数日が経った。一体どういう風の吹き回しなのだろうか。

リノアは、本当にあのメールがスコールから送られてきたものかどうか、正直不安にもなっていた。
しかし、何度見返してみても、送信者のアドレスはスコールから教えてもらったもの。

直接聞いてみようかと思ったが、教室でのスコールの態度はいつもと変わることなく、近寄りがたいオーラが出ている。

(一体何の用事なんだろう…。)

リノアは気になって仕方なく、迫るテスト対策にも身が入らない。
授業中も、何度か先生が「ここ大事だから!」と言っていた箇所も上の空で、
後で何回も友人に教えてもらったりしていた。






―――次の委員会は二日後。
実はその日の夕方には、本当は用事が入っていたのだが些細な事だったので、
リノアはその用事をキャンセルしてスコールとの”約束”を優先させた。
メールの返信でも速攻で『大丈夫!明いてるよ!』と打ってしまい、きっと怪しまれたかもしれない。
教室でもどことなくそわそわして落ち着かないのを、スコールに悟られてはいないだろうか。
そればかり授業中に考えてしまい、いつもよりも意識してしまう。


短いホームルームの時間も終わり、先生が教壇から解散の一言を告げた。
その瞬間、教室中に解放感が漂う。いつもの光景だ。
リノアも一日の疲れを取るように軽く伸びをした後、カバンに荷物をつめる。
友人が挨拶をしながら次々と教室を出て行く中、油断していたせいかその声に気づくのに少し時間がかかった。

「…………おい。」

低く通る声。聞き間違えるはずがない、その声の主はリノアのすぐ後ろに立っていた。
リノアがすぐさま振り向くと、スコールは「ちょっといいか?」とついて来るように促す。
慌てて荷物を抱えて立ち上がると、早足で教室を出て行くスコールを追う。
周りの人間の視線を気にしている余裕はなかった。


階段を降り、校舎の中庭を抜けて、裏門へと向かう。その間、スコールはリノアを振り返る事もなく進んでゆく。
門を出て、しばらく歩くと急にスコールの歩くスピードが緩まり、追いつこうと必死だったリノアはぶつかりそうになった。
スコールはやがて立ち止まると、しばらく何かを考えた後リノアに顔を向けた。
穏やかな夕日に照らされたスコールの顔を見て、自分まで頬が朱に染まっているんじゃないだろうか、
そう思えるくらい、リノアは跳ね上がる鼓動をこらえてたずねる。

「なっ、なに?」
「悪いな、本当は明後日終わってから話そうと思ってたんだが…。」

おもむろにスコールは胸ポケットから写真を取り出してリノアに渡した。
その動作がコマ送りをしているかのようにゆっくりと感じられた。

(…………!!)

リノアはその写真に見覚えがありすぎて、どうして、という言葉を飲み込んだ。
委員会での写真選別の際に、こっそりとリノアが拝借し、そして落として紛失していた写真だった。

おそらくスコール自身も撮られた事には気づいていないであろう一枚。
数ある候補枚数の中で、奇しくもスコールをきちんとファインダーで捉えている写真はこれだけだったのだ。
他のクラス委員の目を盗んで、罪悪感にかられながらも、リノアはその一枚を抜き取り
自分のカバンの中に忍ばせた。もうかれこれ2ヶ月ほど前の話だ。
いつしかそれがカバンの中にない事に気づいたが、誰にも訊く事が出来ず悶々と日々を過ごしていた。
無くしてしまった物は仕方ない、本人が同じ教室にいるだけでもまだ救いだと思っていただけに、
今その当人から現物を見せられた事で、リノアの頭の中はパニック状態になってしまっていた。

「あ、そ、その………。こっ、これは、えーと………。」

リノアがまごついていると、スコールはやっぱりか、といわんばかりに大きくため息をつく。
その仕草を見たリノアは、ひどく苦しく胸が締め付けられた。
やっぱり嫌われてしまったかもしれない。こっそりと人の写真を持ち歩くなんて、いい趣味ではないだろう。


無言で責められているような気持ちになり、リノアは俯いてしまった。
言い訳しても始まらない。素直に謝るしかなさそうだ。
そう思った瞬間、スコールから思いもよらない一言がかけられた。


「それ、あんたのなんだろ?」
「…………えっ?」


唐突に言われた台詞に、思わずリノアは顔を上げる。
日に染まる顔からはうまく表情が読み取れないが、心なしかスコールも戸惑っているようだった。


「去年の最後の委員会終わった後、あんたのカバンから落ちたのを、俺が拾ったんだ。」
「あ…………。」
「あんたのカバンから落ちたものだから、あんたのものだ。違うか?」
「え、……っと。違わなくは……ないけど……。けど、でも。」
「俺が写っているからといって、俺のものだということはない。そういうことだ。」
「で、でも!わたしが勝手に………。」


スコールの言葉の意味するところが、全くわからないだけに、返答に困ってしまう。
半分当たっていて、半分不正解というところだろう。


しばらくお互いに気まずい空気が流れ、どちらも言葉を発せずにいた。
過ぎた時間はほんの1、2分だったかもしれない。ただ、二人にとっては永久に終わらない出口のようにも思えた。
スコールは右手を口に当て、何かを言いたそうに、しかし次の瞬間には眉間に皺を寄せて目を瞑る。
意を決したように、低く短くつぶやいた。


「その…………、写真じゃなきゃ、だめか?」
「え?」


リノアが見上げたスコールの顔は、夕日のせいではない、明らかに違う赤みがかかっていた。




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