あんなの生真面目に答えるな







雨の香りが鼻をくすぐる。もう何日も日の光を見ることなく過ごしている。
こんな日は、部屋にいてももっと気分が滅入ってしまうので
私は気分転換に図書室へ向かっていた。


今日は午後からは何にも予定が入っていないけど、
スコールは相変わらず部屋で書類に囲まれてお仕事中。
そんな時は、邪魔しないようにしているのが一番。
隣で本を読んでいても、お互いが気になって仕方ないし、
ましてやスコールはSeeDの総司令官だもの。
私だけのわがままで振り回しちゃうのは申し訳ないしね・・・。
というわけで、私は一言「図書室に行ってくるね。」とだけ言って部屋を出てきたのだ。


そんな謙虚なリノアちゃんをほっとくなんて、
なんて罪な男なんだ、スコールは〜〜!と、一人心の中でつぶやきながら
図書室に入ると、奥の方の席に見慣れた人物が二人、座っていた。
セルフィとアーヴァインである。


「あれ〜?リノア、どしたの?一人で。」
セルフィが、一人で歩いてきた私を見つけ、不思議そうに訊ねてくる。


「うーん、別に意味はないんだけど・・・。
そろそろ何か新しい本でも入ってるかなぁ〜、と思って。」
「そうなんだー。スコール一緒じゃないの〜?」
アーヴァインがセルフィと同じく、素朴な質問を投げかけてくる。


「うん。残念ながらお仕事中だよ。邪魔しちゃ悪いしね。」
「そっかー・・・。スコールも罪な男だなぁ〜。
こんなにけなげなリノアをほったらかしておくなんてさ〜。」
アーヴァインが何気なく言った一言が、さっき私が心の中でつぶやいた台詞と
ほとんど同じだったので思わず噴き出しそうになった。
ほーんと、そうだよねー。


すると、突然セルフィが
「ままま、リノア、ちょっとこっち来て座らへん?」
と私を手招きして隣の空いている椅子に座らせた。
こういう時のセルフィって、何かたくらんでる感じがするんだよね・・・と
多少の懸念を抱きつつも、私は大人しく誘われるがままにその椅子に腰掛けた。
隣のアーヴァインも、紳士的な振る舞いをしつつもどこかそわそわと落ち着かない。


「いや〜、実にくだらない事なんだけど、
どーしてもセルフィが知りたい、って言うもんだからさぁ〜。」
「ちょっっ!アービン!うちだけのせいにする気〜!?」
「・・・何?何の話?」
ますます怪しい。


「えっとなー。単刀直入に言うとー・・・。
リノアって、スコールと手を繋いだりって、するよねー?」
セルフィがしてきた質問の真意ははかりかねるが、
別に嘘をつく必要もないので、そこは正直に答えることにした。
「・・・え?う、うん。繋ぐけど・・・それが?」
おおー、と何だかわからない輝きを帯びた笑みが二人の顔からあふれ出す。


「その時ってー。どっちが右側に立つとかあるよね?リノア?スコール?」
「えっとー・・・。スコール、が右側が多いかな?」
ふんふん、と鼻息がどんどん荒くなっていく犬のように、セルフィが食いついてくる。


「で、そん時に、そん時にな!ほら、こうやって指とか絡めたりすんの??」
と、セルフィは両の掌をぱっと広げ、目の前で祈るように組み合わせた。
アーヴァインの顔には、どうせやるなら自分の手を使って欲しかった・・・と
言わんばかりの残念さがにじみ出ている。
でも、私はそんなことまで気が回る余裕がなくて。
次に何を訊かれるんだろう、と変に汗をかいてしまう。


「そうしたら、スコールとリノアの親指、どっちの方が上にくる?」
えー?そんなに意識したことなかったなぁ・・・。
いつも、手を繋いでくれる時は、私が強引に繋ぎに行った時が多いけど、
その大きな手で、私の手をしっかりと握っていてくれる感触は忘れようもない。
ただ、それがどっちが上か、だなんて急に言われると
冷静になってその状態を思い出さないといけないから、思わず唸ってしまう。


とりあえず、何故彼女たちがそんなことを訊いてくるのか
逆に知りたかったので、訊いてみた。
「ねぇ、セルフィ、どうしてそんなこと知りたがるの?
もしスコールの親指が上だったらどうなるの?」
「え?え?え?スコールの方が上なん?」
「いや!ちょっと待って、正確にはわかんないけど!ちょっと記憶が・・・曖昧で。」
一応必死に思い出そうとしていることはアピールしておかなくちゃ。


「いやぁ、上ならまさにやるなぁ〜、スコール!って感じなんだけどねー。」
と、アーヴァインは二人で読んでいた月刊誌の特集をちらりと見せながら話を進める。
「ほら、ここ〜。右側に立つ人は、左手で手を繋ぐよね。
繋いだ時に、左手の親指が上に来る人って独占欲が強くって、我も強い。
でもちゃんと守るべき人がいる時には、守ってくれる人なんだってさ。」
何でもないことなのに、少し顔が赤くなるのがわかる。


「え〜?そうなの〜?」
「そう、だから、スコールはどうなんやろ〜?ってアービンと話しててん。
そこにちょうどリノアが来たからさー。これは訊いとかなきゃ!ってね〜☆
で、で、で!どうなんよ?」
ずずい、とセルフィが詰め寄ってくる。逃げられそうもない・・・かな?


「え・・・えっとぉ〜〜〜。親指が上にくるのは・・・。」
冷や汗をかきながら、必死に思い出し、答えようとしたその瞬間。




「・・・何してるんだ。」
「ひゃっ!」
背後から冷ややかな声がし、私は驚いて振り向くとそこに立っていたのは・・・スコール。




「えっとね、これはね、セルフィに呼び止められてね・・・。」
慌てふためく私を尻目に、スコールはぐいと私の腕を掴み、椅子から立ち上がらせる。
「ちょ、ちょっと〜、スコール〜!まだリノアの話終わってへんで〜!」
セルフィは待ったをかけるが、スコールはお構いなしと言った感じで
「どうせまた、下らない特集でも見てリノアから訊き出そうとしたんだろう?」
「下らなくなんかない〜〜!」
セルフィも必死に反抗する。どうしても私の答えを訊き出して満足したいらしい。


「とにかく、話は終わりだ。行くぞ、リノア。」
あっという間に左手で私の右手を掴み、スコールは私を図書室から連れ出していった。
奥の方で、悔しがっているセルフィとそれをなだめているアーヴァインの姿が目に浮かんだ。



歩くペースが早すぎて、置いてかれそうになる。
「スコール、ちょっと早いよ。もう少しゆっくり歩いてよー。」
そんな私の願いを聞き入れてくれたのか、ふと歩みを止めるスコール。


「・・・全く、ちょっと目を離すとこれだ。」
「何の話?」
スコールは何か怒っている様で、それでいて困ったという感じも見てとれるので
一体何に対して機嫌が良くないのかがさっぱりわからなかった私は
顔を覗き込んでみる。・・・あれ?ちょっと目をそらした?
それから、スコールは額に手を当て、首を振りながら大きなため息をついた。



「あんな質問に、生真面目に答えるなよ・・・。」



そう言って。
スコールは再び私の右手を取り、歩き始める。


あ・・・。
今はっきりと感じる。
スコールの左手が私の右手と繋がり、その指はしっかり絡めとられている。
そして親指は・・・スコールの方が上に来ている。
私は、さっきのアーヴァインの話した内容を思い出し、
つい頬がゆるくなるのを止められなかった。


あの内容の真偽の程はわからないけれど。
それでも、今のスコールにとっては本当に当てはまるのかもしれないね。
というか、そうであって欲しいな・・・と思う。



「ひょっとして、スコール、照れてるのかなあ〜?」
「・・・関係ないだろ・・・。」
「あ〜!やっぱり照れてるんだ〜。へっへー、リノアちゃんは嬉しいぞ〜。」
「いいから、黙って部屋で大人しくしてろ。」
「はーいっ♪」



まだ外は雨が降り続いている。
でも、気持ちはこんなにも晴れやかなんだ。
スコールが隣にいるだけで、こんなにも幸せなんだ。
スコールもそう思っててくれると、いいんだけどな・・・。
また後で部屋に戻った時に聞いてみようっと!







Fin




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