強くもないのにそんなに飲むな






俺は今、とある国の外交パーティ会場にいる。
きらびやかな衣装を身にまとった紳士淑女が所狭しと歓談し、
程よくアルコールをたしなみながらくつろいでいる。


まばゆいばかりのシャンデリアの光の下、
俺はその会場でずっと壁の花になっていたわけだが、
それには理由があった。


ガーデンに依頼された極秘任務。
世界各国で暗躍している麻薬密売組織の売人が今回の招待客に
紛れているかもしれないので、そいつをおびき出し、
組織への手がかりを掴むという作戦。
もちろん男女ペアで出席しないといけないので、
俺一人では到底、作戦遂行は難しくなる。
同じSeeDであるキスティスやセルフィと同行でも良かったのだが、
この任務に限り、何故か急に二人して別の任務が入り込んでしまった。


学園長も「仕方がないですねぇ」と本当に心の底から残念がっていたかどうかは
定かではなかったが、俺にとっては心底気が進まない提案をしてきた。
・・・リノアをパートナーとして同行させるというもの。
勿論反対はしたが、いい様に言いくるめられてしまい、
作戦決行となってしまった次第である。


それに、この話をリノアにした時の嬉しそうな顔・・・。
俺は大きなため息をついた。
”わかってるのか・・・?あんた素人なんだぞ?何かあったらどうする?”
”いいじゃない!楽しそうだし・・・。何だかワクワクしちゃうよね〜!”
”・・・わかってないな・・・”
その時の会話がつい先ほどのことのように思い出される。


普通のパーティであれば、楽しむことに関しては何ら口は挟みはしない。
しかし、これは任務だ。
任務に一般人である・・・しかもリノアを巻き込むなんて。


俺は一人、苛立つ感情を抑えながら、会場で愛想よく振舞うリノアを見つめていた。
気になるなら一緒に行動すればいいのに、そうしなかったのは、
リノアを単独で泳がせることで作戦がよりスムーズに動くため、という判断。
リノアを一人にさせるということは、俺にとっては苦渋の決断でもあったわけだが、
任務であれば仕方がない。そう自分に言い聞かせる。




そういうわけで、ずっとこうしてシャンパン片手にリノアの動向を目で追っている。




―それにしても、さっきからリノア目当てに何人の男が寄ってきてるんだ・・・。

確かに相手を油断させるために、普段より露出は多い衣装だが・・・。

リノアもリノアだ、任務ということ忘れてるだろ、あいつ。

さっきから立て続けに飲んでないか?

一体、アルコール度数いくつのを手にしてるんだ・・・。

・・・また一人、寄ってきた・・・誰だ?見慣れない顔だな。

イヤに馴れ馴れしいぞ、リノアもちょっとは警戒しろよ・・・。

そもそも何で俺はここでこんなことをしているんだ、別にリノアの隣にいたっていいんじゃないか?

いや、テキに警戒されない為に単独行動になったんだ、

ここで俺が出て行けばたちまちに作戦は失敗に終わるだろう。

しかし、あの男の馴れ馴れしさは初対面にしては図々しいぞ。

・・・リノア、大丈夫なのか?

ダメだ、完全に酔ってしまってる・・・。あいつ、自分が弱いってわかってないのか。

・・・くそっ!!





男の手がリノアの肩を抱き寄せ、
俺に対して背を向けるように移動しようとするのを見た瞬間、
俺は無意識のうちにリノアの元に歩み寄り、その手を振り払った。


「何するんだよ!」
「・・・それはこっちの台詞だ。彼女をどこへ連れて行くつもりだ。」
眉間に深く皺ができるのが自分でもわかる。不快だ。
「どこって・・・。彼女がいいっていうから、ちょっと外の空気でも吸いに行こうかと・・・。」
「そんなことは断じてない。俺は一部始終見ていたが、同意はしていなかったぞ。
第一、さっき彼女に渡したグラス、その中に何を混ぜていた?」
男の顔色がさっと変わる。思ったとおりだ。
「こ、これは・・・。というか、お前一体誰なんだ?
いちいち俺と彼女とのことを干渉されるいわれはないぞ!?」
「バラムガーデンSeeD、スコール・レオンハートだ。」
怒りに任せて男の手首を掴みながら身分を明かしてしまった。
後の祭りだがこの際どうでもいい。任務なんてクソくらえだ。


俺にとって、リノアに何かがあってからでは遅い。
ただ護衛するだけならもっとスムーズに出来るはずなんだが、
アルコールが入ったリノアだけは放っておくことができなかったんだ。




―十数分後、俺はようやくテラスで一息ついていた。
実は、リノアに絡んでいた男こそが、組織の売人であり、
リノアに渡したグラスにも薬が混入されているのがわかったので、
それが証拠でひとまず任務は完了、ということになった。



隣で火照った顔を夜風に当てているリノア。
「えへへ〜、私、役に立ったでしょ〜?」
俺は、また一つ、大きなため息をついた。
「・・・全然立ってないし、それどころか余計な心配かけさせるし、
本当に困ってたんだぞ、俺。リノアに何かあったら、って・・・。」
「ほえ?そ〜なの?でもスコールも結構色んな女の人に見られてたんだよ〜?」
「そんなの関係ない。」
リノアとの会話は全くもってかみ合っていない。
まだ酔ってるのか。酔い醒ましの水もらってきておいて正解だったな。


「リノア、強くもないのにそんなに飲むなよ・・・。」
「酔ってませーん!」
「それが酔ってるんだ、ほら、水。」
「やだー!スコールハグして!」
「おい。いくらテラスとはいえ、まだ人は結構会場にいるんだぞ?勘弁してくれ・・・。」
「じゃなきゃ、リノアちゃん帰りませーん!イーだ!」


俺はたまりかねてグラスの水を口に含むと、
そのままリノアを抱き寄せ、唇を重ねた。
勢いよく流し込まれる水の冷たさで、
リノアの酔いが醒めたかどうかは定かではないが、
俺の方がリノアに酔っているのは間違いないのかもな。








Fin

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この作品をとても素敵な漫画に仕立ててくださったいちご様に、心より感謝いたします。
とても素晴らしいスコリノ作品に生まれ変わりました(笑)。お忙しい中ありがとうございます。
こちらから是非ご覧下さいませ。


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