他の奴にはそのカオ見せるな







「うわぁ、カワイイ!見て見てスコール♪」
バラムに新しく出来たショッピングモール内のセレクトショップで
リノアは淡いブルーのワンピースをあてがいながら
傍にいる長身の恋人に感想を求めていた。


「・・・さっきとどう違うんだ?」
「もう、ちゃんと見てたの〜?全然違うじゃない!」
「俺には全部同じに見えるけどな。」
「本当、そういうところスコールってば疎いんだから。」
そう言いながらリノアは頬をふくらませる。
先ほどから幾度となく繰り返されているやり取り。
(悪かったな・・・。)


相変わらずの台詞を心の中でつぶやくが、彼の言い分も最もであった。
実際、リノアが手にしていたのはほとんどがブルーを基調とした色合いのものであり、
女性のファッションにさほど詳しくない彼にとって
違いを見出す方が困難というものである。



それでも、たまにこうやって気晴らしでオフの日を
リノアと一緒に過ごせるのであれば、少々の無理難題も大したことじゃない、と
スコールは自分自身に言い聞かせていた。



「ちょっと、スコール!見てくれてるの?」
ほんの一瞬、意識が飛んでいたらしい。
「あ、ああ。すまない。」
「ごめんね、つまんないよね、女の長い買物に付き合っちゃうとねー?」
棘のある言い方を含んでいたが、実際ボーっとしていたのはスコールの方である。
多少の否は認めねばなるまい。



ふとリノアの手元に目をやると、同じブルー系でも
先ほどまでとは明らかに違った素材のワンピースがあった。
ノースリーブで胸元はゆるくU字のカーブを描いている。
少し縁取りにラメ加工が施されてあるが、そんなに強調はしていない。
丈が少し短めなのが気になるものの、全体的にタイト過ぎず、
ボディラインが目立つようなシルエットではなさそうだ。



(これなら別に、リノアへの視線も気になることはないだろうな・・・。)



スコールはこう見えてとても嫉妬深い。独占欲が強いとも言うべきか。
本人が自覚しているのかどうかは定かではないが、
リノアに向けられる他人(特に男性)からの視線には非常にシビアだ。
ゆえに、リノアが着る洋服へのチェックも至極厳しくなる。
ただでさえ陶磁のようなきめ細かい白い肌や、豊かな胸元、腰周りなど
他人を魅了する外見であることをリノア自身はこれっぽっちも自覚していない。
これで更にその魅力を引き立たせるような洋服なんぞを着せた日には
一体周りからの目線はどんなものに変わってしまうのか。
そう考えるのが面倒だから、なるべくそれを目立たせないようにしていた。



「じゃあ、これ下さい。」
スコールはさらっと店員にワンピースを差し出す。
「ええっ!?ちょ、スコール!そんな簡単に・・・いいの?」
まさかこんなにあっさりと即決されるとは思ってなかっただけに
リノアも慌てふためくが、急に声をかけられた店員もさぞかしビックリしたことであろう。
自分の仕事も忘れて、ただひたすら長身で端正な顔立ちの付き添い人に見とれていたのだから。



「ずっと任務でいなかったし、リノアも寂しい思いしたんじゃないのか?
これは、その・・・詫びだ。たまにはいいだろ?」
リノアの表情がぱあっと明るくなる。
「嬉しい!ありがとう、スコール!」
「会計済ませておくから、どうせなら着替えさせてもらったらどうだ?
まだ時間はあるし、そのまま飯でも食いに行こう。」
「やった〜!じゃあ、一緒にこれに合うサンダルとかも買っちゃ・・・ダメ?」
スコールが、小首をかしげておねだりするリノアの姿に弱いのを彼女は知っている。
(全く、しょうがないな・・・。)


スコールはそのまま店員に向かい、
「じゃあ、これに合うサンダルと・・・何かいいアクセサリーとかあれば一緒に着けてやって下さい。」
と言うと、店員は舞い上がってなのか売り上げが取れてラッキー!と思ったのか
「はっ、はい!ありがとうございます!」
と少々裏返った声になりながらも礼をした。
スコールは財布を取り出しながら、試着室に向かうリノアに告げる。
「俺、外で待ってるから着替えたら出て来いよ。」
「はぁ〜い♪」


普段から中々時間が取れないスコールにとって、
リノアが喜ぶことなら何でもしてやりたい、と日々考えていた。
たとえそれが何かの記念日ではないにしても、プレゼントほど仰々しくもなくごく自然に。
今日みたいに気まぐれで服を買ってやるのも、言い換えれば自己満足に過ぎないのだが。



本当は一日中ずっと部屋でリノアと戯れていたい願望もないわけではなかったが、
せっかくのいい天気を、部屋で過ごすのは勿体無い、と言い出したのはリノアである。
彼女の自由はほんの限られた時間。
それならば、彼女が好きなように、満足できるように努めるのが俺の役目。



「・・・おまたせしちゃった。」
ふいに声をかけられる。
我に返ると同時に、そこにいるはずのリノアの姿がいつもと違うことに一瞬目を奪われた。
「リノア・・・?」
確かに顔も体も声もいつも見慣れている彼女なのだが、
唯一ヘアスタイルだけが変わっていた。
背中までなびく漆黒の艶やかなロングヘアが
今はショートボブになっていて、毛先が大きく内側にカールし頬にかかっている。
「お前・・・、いつの間に髪切ったんだ!?」
その台詞に、リノアはくすくすと笑い出す。



「へへー、ビックリした?これ、ウィッグだよ。」
「ウィッグ?」
「そう、かつら〜。あまりに精巧だからわかんなかったでしょ。」
「なんでそんなもの・・・。」
「店員さんがね、サービスで着けてくれたの。
”こっちの方がこのワンピースには似合いますよ♪”って。
”これで彼氏さんも釘付けですよ〜”なーんて言われちゃった!」
顔を赤らめながら、無邪気に話すリノアの姿に、スコールが動揺しないわけがない。
ウィッグ姿のリノアを見た瞬間、今までにない心拍の跳ね上がりを感じたのだから。



リノアの手を取り、スコールは人通りの少ないコーナーへ隠れるように入り込む。
「ちょっ、なに、スコールー。どうしたの!?」
(そんな顔するリノアが悪いんだからな・・・。)
そう思いながら周りから見えないようにリノアを抱きしめ。
目を潤ませ、見上げている顔を見つめながら口付ける。
柔らかな唇の感触をいとおしむ様にゆっくりとついばみ、そして更に深く。
これ以上行くと、理性のタガが外れてしまいそうになる位の所で離すと
リノアの口元から吐息が漏れる。
潤った唇が再びスコールを誘うような、そんな艶めき。



「リノア、ウィッグ取ってくれ・・・。」
「あ、似合ってなかった・・・?」
「そうじゃないんだ。俺がその・・・落ち着かなくなる。」
(こんな色っぽいリノアの顔、他の奴には見せたくないんだ・・・。)
そんなスコールの心情を知る由もなく、リノアはただただ
(似合ってなかったんだ、どうしよう・・・、嫌われたかな?)
と考えながらスコールに抱きしめられ続けていたのである。








Fin




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