いい加減慣れてくれ







朝の光がブラインドの隙間から微かに差し込む。
…今日は晴れる、か?
けだるいながらも、心地よい疲労感に包まれながら、
俺はそっとシーツから抜け出し、シャワーを浴びようとタオルを手に取る。




――そばに眠る彼女を起こさないように。




…いつの間にかリノアは、ガーデンの男子寮にある俺の部屋に度々訪れるようになっていた。
そして、こうやって二人で朝を迎えるのは一度や二度の事じゃない。
こういう関係を、恋人と呼んでいいのならきっとそうなのだろう。
俺にはまだ確信は持てないが、
リノアが俺の事を好いているのは間違いのない事実だし、
俺自身もまた、リノアの事を大事に思っているのだから…。





だからといって、この先どうしていいかとか、どうなるかとか、
具体的な道行きは全くと言っていいほど見えてこない。
まるで真っ暗な闇の中で必死にもがいている様な、そんな感覚。




顔に勢いよくかかる熱い水しぶき。
一気に覚醒へと導く、俺にとって効率のよい手段。
考えている暇なんてない、前に進むだけだ。
今が幸せとは思わない。これから俺やガーデンの働きによって
リノアのことをしっかりと守れるようになってこそ、
本当に心から幸せと思えるようにならないと…。




ふぅ・・・。
一つ息をつき、火照った体にまとわりつく水滴をタオルで拭き取っていく。
髪はいつも無造作に拭いているから、リノアに注意されることが多い。
風邪でもひいたらどうするのっ!って。
ドア一枚隔てて、まだそこに眠るリノアの口調を思い出し、
思わず笑みが浮かんでしまう。
俺、そんなにやわじゃないぞ?




今日は午前中はオフで、午後からに学園長を交えて各部署の統括会議。
数人、外部からの視察が入るから、SeeD服まではいかなくとも
ある程度の服装で望まねばならない。
あぁ、かったるいな…。
せめて午前中だけでも楽な格好でいさせてもらおう。



そう思いながら俺は、傍らに脱ぎ捨ててあった
ブラックレザーのパンツを無造作に掴み取り、履いた。
タオルを首にかけ、何か冷たい飲み物を探そうと浴室を出た途端、
いつの間にか起き出しベッドの上で目をこすりながら座り込んでいる
リノアと目が合った。その瞬間…。



「いやぁ!スコールのえっちっ!」
「……はぁ?」
すかさず顔を真っ赤にして、リノアはシーツで顔を覆った。



一体全体、いきなり何を言い出すんだ。
俺は全くもってリノアの意図するところがわからないので、
素直に口に出して問うてみる。
「何がなんだよ…。まだ何もしてないぞ?」
どちらかというと、それは今言う台詞ではないだろう…と
心の中で突っ込んではみるものの、
とにかくリノアの次の言葉を待つ以外にない。



少し乱れた前髪をそのままに、
シーツから覗くやや上目遣いの目を潤ませながら
リノアはようやくこちらに聞こえるくらいの声で言った。
「…だって、スコール上半身何も着てないから…。」
「え?」
「早く何か着てよ〜〜っ。」



リノアは、俺が上半身何も身に纏わずに
レザーパンツだけで出てきたのが恥ずかしいのか。
こんな姿、別に今初めて見たわけでもないのに…。
こみ上げる笑いをかみ殺し、俺は髪をタオルで拭きながら
リノアがいるベッドに腰掛ける。




「いい加減、慣れてくれよな…。」
「だって、スコールセクシーでかっこよ過ぎるんだもん…。」




心臓が高鳴るのを抑えられない。
そんなことを言うあんたも、十分すぎるほど魅力的なんだ…。
それが俺をどれだけ虜にしているのか、あんたは知らないだろう?




交わすキスは、シャワーよりも目覚めには効くなんて、今初めてわかった。
これからどうなるかなんて、考えるよりも
自分の気持ちに正直に生きよう。
これが恋人と呼べるものであるならば、
俺たちはずっとその関係を保ち続けられるだろうから…。






Fin

(2009.02.28)


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