俺が悪かったからそんな顔すんな

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―――雲一つない澄み切った空には満天の星が、そして下限過ぎの月光がうっすらと地上を照らす。
今日は10月31日。バラムガーデンの食堂では毎年恒例のハロウィンパーティが開催されていた。


普段は無機質なカラーのコントラストで覆われた広い空間も、有志により華やかな飾り付けが施されていた。
テーブルクロスやカーテンにはやや光沢がかかった黒のサテン地の布を使用し、
室内照明にもカボチャをあしらったランタンや、様々な形のキャンドルを用い、怪しげな雰囲気作りに一役買っている。
ホール全体に天井から壁にかけて黒とオレンジの画用紙を切り貼りし、少し凝った造りのモビールがゆらゆらとぶら下がっている。
天井の四隅には、ご丁寧に蜘蛛の糸まで散らす凝り様。正に仮装大会に相応しい会場として賑わいを見せていた。


主役は勿論、バラムガーデンに在籍する生徒や教員、そしてSeeDたちである。
皆、それぞれに趣向を凝らした仮装をし、ほんの一時の平和な時間を共有する。
普段であればこういったイベント事に集まる機会は中々スケジュール的に難しいのだが、
今年のハロウィンは幸か不幸か、何事もなくほぼフルメンバーでの参加が可能になった。



メインステージから少し離れて窓際に近いテーブルで、リノアはセルフィ、アーヴァインと共に談笑していた。
片手に小さいシャンパングラスを持ちながら、空いた片手でしきりにワンピースの裾を軽く引っ張る。

「どうでもいいけど………、この丈、やっぱり短すぎない?」
話の腰を折って申し訳ないという風に困り顔をして見せるが、目の前のセルフィは
「何言ってんの!リノアはスタイルいいんやから!これくらいの露出でもなんてことないって!」
と根拠のない自信でリノアの言葉を塞ぐ。
「そうかなあ……………?」

そう言うリノアの格好は、普段の爽やかなブルーのイメージを覆すようにハロウィン仕様に仕立て上げられていた。
可愛らしいピンクオレンジのミニワンピースに、黒の編み上げエンジニアブーツ。頭には黒の大きなツバ付き帽子。
ワンピース自体は僅かにラバーを使用しているため光沢があり、ボディラインをより強調するようなタイト感。
それだけでも少し気恥ずかしい造りなのだが、問題は胸元が大きくV字に切り込まれ、下手すると見えそうになってしまう襟元。

――――これらのデザインはいわずもがな、セルフィの案によるもの。


「大丈夫!こんな可愛いリノアやもん、はんちょがほっとくわけないよ!」
「でもスコール、パーティ始まってから一度も目を合わせてくれないよ?」
「そりゃ〜、もう、リノアがセクシーすぎて仕方ないから恥ずかしがってるんじゃない〜?」
横からアーヴァインも茶々を入れる。狼男の仮装をしたこの男は、隣で同じく女狼の格好をしているセルフィと顔を合わせ頷きあっている。
この二人もある意味似たもの同士でお似合いカップルだと思うのだが。


「そうだよね〜?ほら、はんちょもそんな所で壁と話してないで〜!………って、あれえ!?」

セルフィが5メートルほど先の壁際にいたスコールに手招きしながら声をかけると、いるはずのスコールは姿を消し、
代わりに別の生徒たちがもたれかかり飲食に勤しんでいた。
少なくとも10分ほど前には、半ば壁と同化しつつも、リノアたちの会話を遠目から眺めていたのは間違いない。

「どこ行った、はんちょ!」
「リノアを置いてどっか行くなんて考えられないし………トイレにでも行ったんじゃないかい〜?」
「それならそれで、一言言っていけばいいのに!」
突然のスコールの失踪劇に、セルフィの語気が荒くなる。

「リノアだって、はんちょが居なかったら面白くないでしょ?」
「う、うん、そりゃそうだけど………。」
有無を言わせない眼力に迫られ、たじたじになりながら答えると、セルフィは満面の笑みを浮かべてリノアに一つの”ミッション”を下した。
「では、今からはんちょ探しのイベントスタートぉ〜〜!
日付が変わるまでに、ここにスコールを連れてくることが出来なかったらリノア、罰ゲームだかんね〜!」
「………ええっ!?」



      *      *      *



数分後、ガーデンの廊下を息せき切らして走るリノアの姿があった。
(急がなくちゃ………!)
リノアはスコールが居そうな箇所をくまなく探す。しかし、広いガーデン内でその作業は容易な事ではない。

訓練施設の前を行き過ぎようとしたが、何か直感のようなものが働き、リノアは廊下へと足を向けた。
仮装をし、戦闘の準備をしているわけではないので、むやみやたらに奥に分け入ることはないだろう。
リノアは高をくくっていたが、何と入り口の前に”初心者コース:定期点検のためモンスター入れ替え作業中”の立て札があった。
これだと奥に逃げ入ってしまう事は容易い。パーティが終わるまで身を隠すのにもうってつけの場所になるだろう。
遠くから上級者コースに放たれているアルケオダイノスの咆哮が響き、リノアは軽く身震いをする。


だが、リノアの不安はすぐにかき消された。分岐点付近に、見慣れた人物が立っていたからだ。
ホッとして慌てて傍に駆け寄った。息を切らし、少し掠れた声で名前を呼んだ。

「スコール、やっと見つけたよ〜!ここにいたんだ………。」
「悪い。どうしてもあの雰囲気には馴染めなくてな。」

そう言いながらも、全然悪びれた様子もなく、むしろ清清しいといった様子。
セルフィに無理矢理着けられた仮装用の黒マントは剥ぎ取られ、小脇に抱えられていた。

「せっかく楽しみにしてたハロウィンパーティ、途中で抜け出していなくなるんだもん!」
「悪かったって………。」
「日付変わるまでにスコール探し出してこないと、私、罰ゲーム受ける事になるんだよ?」
「罰ゲーム?」

そう、と頷き、半ば抗議の意を込めてリノアは上目遣いでスコールを睨み付ける。
スコールはその表情を変えることなく「そうか。」と一言頷くと、無言で踵を返し、施設の中へと分け入っていく。

「ちょ、ちょっと!?スコール!?どこ行くの?」
「決まってる、奥に行くんだ。」
「奥って……。もしかして”秘密の場所”?ねえ、ちょっと!わたし、急ぐんだけど〜!」
「………日付が変わるまでに戻ればいいんだろう?」
「……………!!」
ちらりとリノアに視線をやるスコールにはどことなく悪戯な笑みが浮かんでいた―――――。



      *      *      *



リノアが何とかスコールを会場に連れ戻してからしばらくして――――。

「はい、リノア。これ!」
共に居たセルフィが目の前に差し出したのは、スコールを捜しにいく前までリノアがかぶっていたツバ付きの黒い帽子だった。
「あ、ありがとう。どこで落としたか気になってたんだ。」
「…………訓練施設の前に落ちてたよ?」
”訓練施設”という言葉を聞いた瞬間に、リノアは先ほどまでの”行為”を思い出し、突如顔が紅くなった。
別に誰に咎められている訳でもないのに、意味なく周りを見回してしまう。

その仕草を見たセルフィは、自分の予感が確信に変わったことに喜びを隠せない様子で、小声でリノアに詰め寄った。
「はんちょもさ、隅におけないよねえ〜?」
「な、なんのこと!?」
「ま、罰ゲームが無くなったのは惜しいけど〜?リノア、もう罰ゲーム受けてるようなもんだよ〜?」
嬉しそうな笑顔のセルフィは、これ見よがしに自分の首筋を左手の人差し指でつつく。
「………………!!」
リノアは咄嗟にその意味を理解し、左手で自分の首筋をおさえた。その下に咲いていた、小さな”紅い華”の証拠を隠す為に。



その後、セルフィが他のSeeDたちの所へ走っていくと、リノアは人目を気にしながらスコールの元へと向かった。
スコールも、やってきたリノアの気配に気付く。その背中には再び黒いマントが結わえられていた。

お互いの間に、少し気恥ずかしいような、微妙な雰囲気が漂う。
目の前にいるリノアは、先ほど自分が弄んだことに対する無言の抵抗なのか、首元を不自然に隠して立っていた。
それさえも煽られているような、そんな感じがしてスコールは再びリノアを腕の中に閉じ込めてこのまま姿を消してしまいたくなる欲望に掻き立てられる。

ギリギリまで我慢した、怒りと恥じらいが混じった顔は紅潮し、キッとスコールを上目遣いで見据える。
「………………………スコールの、バカ。えっち。」
小声で囁く。潤んだ黒曜石の瞳が、灰蒼の眼を射るように見つめている。


完全にノックアウトだ。自分に非があるのは100%認めざるを得ない。
スコールは軽く溜息を付くと、リノアの頭を無造作に撫でる。その拍子に柔らかな黒髪が僅かに乱れた。

「俺が悪かったから………。そんな顔するなよ。」
「もう………、知らないっ。」
「リノア…。」

軽く頬を膨らませて、拗ねる仕草を取る彼女。本気で怒ってはいないのだろう。
しかし、目に見える所に悪戯を仕掛け、困らせてしまったことは事実だ。
スコールは軽い反省の意を示しつつも、それ以上の嫉妬心の深さに心の中で失笑した。

リノアのこの格好を、誰の目にも晒したくなかった、と言うのが本音だったと知れば、彼女は一体どんな顔をするのか。
自分を悩ませた、せめてもの反抗が、あの首筋の印なのだとスコールは自分に言い聞かせる。


この世界にただ一人、”自分だけのもの”として。







Fin


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あとがき
Crimson sky」の火神さまにサイトカウンター10000ヒットを踏んでいただいた際に
リクエストとして承ったのが、「バカップルなスコリノ」だったのですが、
えらく遅くなった上に、ぜぜんバカップルにすらなっていないという、かなりお粗末な代物になってしまいました・・・(T_T)
もっともっとウズウズできるような内容になれば良かったのになあ(笑)
何とかハロウィンに絡ませようと四苦八苦しました(^^;火神さま、リクありがとうございました!

まだまだ拙いサイトではございますが、これからも皆様に楽しんでいただけるよう頑張ります!!




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