代弁



”もしもわたしがいなくなっても、ずっと心に残っていたいから――――。”



(…………やめろ)



”だって、そうじゃなきゃ、わたしがこの世に存在した意味がない。”



(…………それ以上、言うな)



”わたし、忘れられるのは寂しいから。だから、そうして欲しいの…………。”



(…………やめて、くれ…………)



”スコール。愛してる…………。”



(リノア…………。)









「――――――リノアっ!!!」


いつの間にか眠りに堕ちていたのか。
ラグナロクの仮眠室で、自分の張り上げた声に驚いて目が覚めてしまった。
気づけば薄いブランケットが膝にかけられており、それを必死に握り締めている。


背中が冷たい。額からもとめどなく汗が流れ落ちる。
…………ほんの僅かな間なのに、嫌な夢を見た。
今も肩で息をしている。




リノアは今、どうしているのか。
何もない部屋で一人眠らされている?
色んな奴らに根掘り葉掘り聞かれているのか?

それとも……、もう…………。


嫌だ、考えたくない。悪い事は考えると現実になりそうで。
口にしてしまえばもっと本当になりそうな気がして。


キスティスにバカって言われた。他のみんなにも、散々責められた。
わかってる。悪いのはぜんぶ俺だって。
あの時はどうしようもなかったんだ。他に何が出来た?
自棄になりそうだった。リノアの気持ち、わかっていたのに。
手を差し伸べてくいとめる事もできなかった。



なんてちっぽけな男なんだ。



それでも、みんなは俺に勇気をくれた。前に進む勇気を。
リノアを取り戻すための熱情を。


くれた、はおかしな表現だ。きっと、元から俺が持っていたものなんだろう。
隠しておきたかった、恥ずかしいとさえ思っていた自分の一部。
――――でも、もう迷わない。



リノア。
あんたは「遺す」という言葉を選んだ。
それが何を意味するかわかっているのか?
あんたはもうこの世にはいなくなるってことなんだぞ。
あんたがいなければ、それはもう意味がない事じゃないか。
例え残ったものが、あんたのものだったとしても。
俺にはそれがリノアであることと同じではないんだ。
リノアの遺志であっても、あんたに触れる事は叶わなくなるんだ。


何のために、エスタに行って、エルオーネに会って、宇宙まで行って、あんたを取り戻したんだ。俺は。
俺は、あんたを失うために飛び出したわけじゃない。

…………リノアの声が聞きたいから。リノアの笑顔が見たいから。








だから、みんな。
こんなカッコ悪い俺だけど、力を貸して欲しいんだ。
リノアを、この手に取り返すために。





少し冴えてきた頭をふるってソファから立ち上がり、コックピットへと向かう。
自動ドアが開くと、仲間たちが心配そうに振り返ってこちらを見ていた。


「大丈夫?スコール。随分うなされていたみたいだけど…………。」


「ああ、心配かけてすまなかった。」


「はんちょ、行き先決まった〜〜?」


「魔女記念館へ。リノアを取り戻す!」


「「ラジャ!!」」



操縦席のセルフィとアーヴァインが揃って敬礼をする。

――――――赤い機体が、うなりを上げて青空をかけぬけた。











Fin


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あとがき

時間軸として、リノア奪還直前のイメージです。もんのすごくダークな感じですみません。

このお話には拍手お礼小話をつけておりました。
以下より読めます、リノア視点です。
代弁(わたしができること)




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